危機の宰相 沢木耕太郎

昨年、草加家のイベントにて古本のジョンレホンさんで購入した本。ちなみにリンクは文庫本版だけど、僕が買ったのは単行本版です。

2006年の刊行だが、週刊誌に連載されたのは1977年、長らく忘れられた作品だったらしい。書籍化されたのは2006年が小泉政権下だったことと関係あるのかもしれない。推測だけど、どこかオーバーラップするところがあるんだよな。

日本にとって戦後の進路を決定づけた行動経済成長期を「所得倍増」というスローガンをキーワードに、時の首相池田勇人、彼のブレーンだった経済学者下村治、そして宏池会事務局長田村俊雄の3人の人物を軸に語られている。

安保闘争で岸内閣退陣後、池田内閣のもとで高度経済成長を遂げたことは誰でも知っているが、1年もしない間に大きく時代の潮目が変わった理由についてはさっぱり。それこそその当時が「そういう時代だったから」くらいの認識しかなかったが、すでにその頃は戦前の水準まで復興しており、むしろ成長は鈍化するという意見が(都留重人など)趨勢だったらしい。

「所得倍増」を「戦後最大のコピー」とみなし、この言葉が生まれる経緯を解き明かすさまは、推理小説を読んでいるような面白さがある。

池田・下村・田村の3人の描かれ方も精彩に富んでいる。この中では無名の存在といっていい田村俊雄の存在感はひときわ印象的。自民党最大派閥の金庫番という俗世にまみれたような立場ながら浮世離れした理想主義者、彼のような存在がいたからこそ、世界でも稀な経済成長が実現した、という着眼は面白い。

政治が舞台ということで、内容は当然かなり固いけど、文体はむしろ平易で読みやすく、グイグイと引き込まれるようなリーダビリティがある。ノンフィクションはいままであまり読んだことなかったけど、食わず嫌いせず他の作品も読んでみたいな。

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