福岡県は秋月が舞台、というだけで買ってみた(^^; もう一度行ってみたい観光地ナンバーワンなんですよね。個人的に。行ったのは10年以上前なので、街の雰囲気もいくらかは変わっているだろうけど。
一度足を運んでいるので、杉ノ馬場、眼鏡橋といった記憶にある地名が出てくるのがなんだか嬉しい。特に眼鏡橋完成までのエピソードは物語の大きなウエイトを占めている。
実際に見ると、一連アーチのこじんまりとしたかわいらしいくらいの石橋だが、江戸時代の九州の小藩にとっては藩論を二分するほどの一大プロジェクトだったんだな、と思うと妙な感慨。
秋月名物広久葛誕生のエピソードも。まあこのあたりは創作だろうけど、ここがこの小説の一番の泣かせどころだったりする。
こじんまりとした小京都、とのイメージが強いので、のどかな小説を想像していたら、全然違った。むしろ政治小説。
青年藩士たちが、専横の悪名高い家老を倒そうとする、という展開はありがちだが、この小説の本領は家老排除に成功してから。
福岡藩の支藩という秋月独特の事情が複雑に絡み、秋月を傀儡化しようとする本藩の意図、悪人と思われていた家老宮崎織部の本心が明らかになり、主人公間小四郎は織部と同じように悪名をまといながら藩政の中枢を担うことになる。
権謀術数うずまく重くなりがちなメインストーリーに、女たちの悲劇や派手な立ち回りも交えて展開するストーリーテリングの妙は巧い。そして登場する人々の高潔さが清廉で、背筋を正される思い。少々高潔すぎる気がしないでもないが(^^;
己が弱い人間であると自覚しながら「それに打ち克つ」ことこそ生きる定めという間小四郎の、世間に悪評を受け、時に同士と反目しながらもゆるぐことのない覚悟の持ち様が凛としていて、さわやかな読後感につながっている。