実を言うとこの本を買ったのは今年の3月。
由布院に行った際、宿で暇を持て余したら読もうと思って買ったもの。
ただその時は別に持って行っていたジェイムズ・エルロイ「キラー・オン・ザ・ロード 」という旅先に読むにはふさわしくない小説を読んだので、手つかずでそれっきり。
その後買ったことをしばらく忘れていたので、読了したのは9月だった。
何故今になって紹介したかというと、まあ、ネタ切れだからだが(苦笑)
デビュー当時は「日常的な謎」ものを得意とする作家で、北村薫 のフォロワーとも目されていたようだが、個人的には北村薫より好きな作家。
1999年刊行のこの短編集では、ミステリーと言うよりファンタジーの色彩の濃い作品が多い印象。
1作目の「黒いベールの貴婦人」では「幽霊」という超常現象を現実に起ったものとして取り扱いながら、それにまつわる謎を解く、という体裁を取っているのに対し、次の「エンジェル・ムーン」では一見ファンタジーかと思わせて、論理的な謎解きを導いてくる。
この趣向のおかげで、次どんな話が来るのか、読む方の予想を難しくしてくれている。ある意味アンフェアだが。
表題作はパラレルワールドを題材にしているが、そこに高度成長時代(だよね?)の社宅の日常、という極めて俗世間そのものの空気を絡めることで、話に深みを与えている。
印象的なのは「フリージング・サマー」。読後感はむしろ辛いくらいなのだが、死んで「無」になる怖さというのもあるが、生きてるものはいずれ忘れ去られるという「虚しさ」。もし自分が死んだら、自分のことはいつまで覚えていてもらえるのだろうか、とか、とりとめないことを考えてしまいました。