日経新聞に連載されていた安部龍太郎氏の「等伯」が面白かったので長谷川等伯という画家がちょっと気になっていたのだが、本屋で別の作家の長谷川等伯主人公の作品を見かけたので買ってみた。2008年の日経小説大賞受賞作品とか。
数年の時期に同じ主人公の作品が、それもどちらも日経新聞と関わりあう形で出たというのはなんか意味があるのかな
で、萩氏の等伯。
先に読んだ安倍氏とは随分キャラクターが違う。
「努力の人」的な部分は同じだが、安倍等伯が武芸者だったのに対し、萩等伯はそちらの方はからきし。実際のところ世にでる前のことは謎に満ちた人物なんだろうな。その分作者の想像力を羽ばたかせる余地が大きいのだろうが、あまり時間を空けずに読んだため、ちょっと戸惑う。
もっとも戸惑ったのは等伯の息子久蔵のキャラクターが真逆だったこと。安倍氏の作品では父親以上に思慮深い人格者だったのが、こちらの久蔵さんはかなり癇癪持ちな芸術家肌(^^; 家から追い出されたり、人妻とあやしい仲になったりとなかなか忙しく、脇役のひとり、というよりもう一人の主役。
特に「桜図」のエピソードはこの物語の最大のクライマックスといった印象。あとの松林図屏風のエピソードより印象に残った。。桜図が「動」のクライマックス、松林図が「静」のクライマックスといった感じで、味わいがだいぶ違うが。
当時画壇の最大勢力だった狩野派、その総帥狩野永徳との確執はいくぶん薄味。特に永徳はほとんど出番なく死んでしまうし。その分久蔵の想い人である璃枝、その夫の入江義晴といった久蔵関連のキャラクターのパートが多く、その点も久蔵の主役感を高めている。いけ好かないキャラクター(血統主義の権化的な)の義晴視点の描写があるのか分からなかったが、まさかああいう展開になるとはね。ただこれによってストーリーの起伏が富んだ反面、ちょっと散漫な感じになった点は気になった。