黄金を抱いて翔べ 高村薫

昔読んだことがあったのだが、昨年映画化されたのを知って久しぶりに本棚の奥から取り出してみた。

そうとう昔に買った文庫本。高村さんは加筆修正が多い作家なので現在流通している版とは内容が異なっているかも、と気になりつつも読んでみる(^^;。何しろ内容どころかタイトルまで変えた作品(我が手に拳銃を→李歐)があるくらいだからな(Wikipediaによると、加筆修正は単行本から文庫本になる時に行われた模様)

多分15年以上ぶりに読んでみたが、これが物の見事に、内容覚えてなかった(^^ゞ 多分二十歳前の時読んだので、当時は難しすぎたのかも。北朝鮮のスパイ、といった話もまだピンとこない時代だったからなあ(自分がそういう世界情勢に疎すぎたのもあるが)。

銀行の地下に眠る金塊の強奪を企てる犯罪者グループを描いたクライムノベル。一般的なミステリーなら犯人と銀行に過去の因縁を絡めたりして、「何故」金塊強奪に手を染めたのかを描くところだが、この小説ではその点は全く触れておらず、犯人側(特に主人公の幸田)の犯罪という形でしか己の生を体現できない生き様、心の闇が描かれている。

そこに半島の諜報員の影、暴走族とのトラブルなどが絡みつつも、比較的淡々と話が進み、さらに緻密に描かれる金塊強奪計画は文章だけだと理解するのがむずかしく、少々読むのが疲れる。

それがクライマックスが近づくにつれ、次々に人が死んでいく展開が先が読めず、圧巻。人が死んでも低体温というか、抑えた筆致で描かれているのが逆に緊迫感を感じさせる。

話が動き始めてからの展開が少々早すぎる気はするが、これは「日本推理サスペンス大賞」応募のため枚数制限があるが故、だろうな。デビュー作でなければ後半が膨らむ形で上下巻になってたのは間違いない。

ただこの筆足らずなところが逆に物語全体を覆う刹那的な雰囲気を高めている感も

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