随分と久しぶりに池波正太郎。
「仕掛人 藤枝梅安」シリーズに繋がる裏稼業もの。梅安シリーズの主要キャラは出てないものの、羽沢の嘉兵衛とか芝の治助とか白子の菊右衛門とか、池波シリーズではお馴染みの元締たちがあちこちに出てきてるのが面白い
「縄張り」(とかいて「しま」と読む)は「江戸の暗黒街」の雰囲気が最も色濃く出た一編。香具師の元締三の松平十急死をきっかけに跡目争いが起こり、さらに顔役連中が兵十の縄張をめぐって暗躍し・・・ という話。
出てくる元締連中が池波作品ではお馴染みの顔ぶれ、わずか40ページ程度の短編の中で小気味よく(といったらあれだけど)殺されまくるというのが、なんとも贅沢というか(^^;
最後に利を得る黒幕も、池波ワールドではちょっと地味な印象のあの人だったり
同じく元締連中総出演?の長編「闇の狩人」を思い出した。
とはいえ、江戸アンダーグラウンドの抗争を真正面から描いたこの作品はこの短編集では例外に近い存在、大半はアンダーグラウンドな世界に生きる人間の思いの行き違いから生じた悲喜劇を描いたものが多い。妾殺しを下働きの少女に目撃された殺し屋と、性悪な女主人への恨みから殺し屋を恩人のように思い、彼をかばおうとした少女の思いの行き違いから生じた事の顛末を淡々と綴った「おみよは見た」はその代表例。
因果応報、という言葉が思い浮かぶが、必ずしも勧善懲悪とはいえない余韻のほろ苦さが池波作品の醍醐味。アンダーグラウンドな作品のためか、テレビ版の鬼平犯科帳の原作に転用されている作品も多い模様。
「おみよは見た」は松本白鸚版、中村吉右衛門版の両方、「縄張り」も松本白鸚版でドラマ化されてるとか。ネットであらすじ見たら白鸚鬼平の「縄張り」がかなり面白そうな感じなんですよね。顔役殺し屋連中に負けじ劣らずと鬼平までダークな感じのピカレスクな話で^^;