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今回も黒田官兵衛もの。直木賞作家安部龍太郎 の1996年の作品。官兵衛大河ドラマ化に便乗してか、昨年11月に文庫化されたので、買ってみた。
といっても実質的な主役は如水の息子黒田長政、そして家康の側近本多正純。
関ヶ原合戦が終わり、黒田如水に謀反の疑いが持ち上がり、本多正純が真偽の究明を命じられる、というのが発端。刑事本多正純(違)の長政を始めとする関係者への取調べ(?)による会話中心の静のストーリー展開は戦国モノの歴史小説としては珍しい。
薄皮を剥ぐように謎が解けていくさまはなんだか推理小説のよう。派手な活劇もなく退屈そうに見えて、これが部類の面白さ。関ヶ原合戦に秘められた真実、そして家康の真の意図が明らかになるクライマックスに向けての盛り上がりは並のミステリーを凌駕する。
ここで描かれる如水は、葉室麟の理想主義的な如水と比べるとより底の知れない曲者ぶりが顕著。主に息子長政の視点から描かれているためだろうか、より老獪で、どこかしら怪物的ですらある。。一方でキリスト教の強烈な信仰がそのパーソナリティの源泉となっている点は葉室如水と共通している。
もう一方の主役である本多正純、彼が主役の話はあんまりないような気がするが、前に読んだ松本清張の「西郷札」で本多正信・正純親子を描いた「戦国権謀」を読んでいたのはタイミング的にちょうどよかった。
「戦国権謀」での正純は父正信、そして家康すら見下している驕り高ぶったエリート官吏、といった趣なのに対し、こちらで描かれる正純は切れ者ながらも、黒田親子のみならず、底の知らない正信、そして家康といった老練な策士たちに翻弄される様はちょっと悲哀が漂う。だが激務に追い詰められながら、切腹、すなわち死を意識することで覚悟を定める彼もまた戦国の男であると認識させられる。
父子の相克、というテーマがのがストーリー全体を覆っているのが印象的。長政と正純を主軸に、細川幽斎・忠興、それに竹中半兵衛・重門といった脇役の親子関係を絡めつつ、謎の核心である、如水謀反の書状の宛先もまた、そのテーマに収斂する、という構成は見事。