今回の福岡行き、第一の目的は10月1日より福岡市美術館で開催の「ギュスターヴ・モロー展」
2日目に早速行ってきたが、平日で台風接近中だったためか、思ったほどお客さんは多くないな・・・ 印象派に比べるとマイナーなのかな
ギュスターヴ・モロー美術館所蔵のコレクションということで、展示されている作品は全てモロー。最初から最後までモロー一色。
なんと行っても一番の売りは「出現」。ポスターや図録の表紙にも使われている知名度の高い作品。同じ構図の作品は複数あるようだが、ルーブル美術館所蔵が水彩に対し、モロー美術館所蔵のこちらは油彩。特別に一部屋をあてられ展示してあった。
サロメの前にヨハネの生首が浮かび上がる。非現実的で幻想的な光景だけど、ヨハネの生首の切り口の描写がやたら生々しい。
画面全体に残る線刻が不思議な感覚。一つの画面に二重の世界があるような感じで、幻想的な雰囲気を更に深めている
で、この絵の主役たるサロメなんだけど、ファム・ファタルと言うにはやけに堂々としているというか、勇ましいというか。怨念のこもったヨハネの生首も直後に瞬殺してしまいそうな雰囲気^^;
サロメを題材にした作品は下書き、素描も含め他にも数多く展示。サロメの横顔のアップと、右奥に斬首される直前のヨハネをうっすらと描いた「サロメ」は憂いを帯びた表情が「出現」のそれよりむしろ悪女そのものっぽい。未完成の水彩画「踊るサロメ」は未完成故に鮮やかな彩色の華やかさが際立ち、インパクトがあった。
後半はモローの描くファム・ファタル(宿命の女)あれこれ。「女というのは、その本質において、未知と神秘に夢中で、背徳的悪魔的な誘惑の姿をまとってあらわれる悪に心を奪われる無意識的存在なのである」というのはモロー本人の言葉だけど、彼が19世紀に生まれていてよかったと思います。現在ではフェミニストに八つ裂きされる覚悟がなきゃ言えないセリフだ^^;)
この中では「セイレーン」が印象的。一般的に人魚のような姿で描かれることの多いセイレーンだが、モロー版のセイレーンは足の先が蛇。犠牲者の体に絡みついているのがおすまし顔と相まって怖い。「レダ」の妖艶さもいい。スフィンクスは今ひとつピンとこなかったなあ
7月の久留米市美術館で見た「ラファエル前派」に相通じる物があるが、ラファエル前派の連中の乱脈ぶりと比べるとモローの私生活はおとなしいものだったらしい。順序が前後するが、サロメのコーナー前の第一室はモローに影響を与えた女性の解説、一人はモローの母親、ポーリーヌ・モロー、もうひとりが10歳年下で死別まで30年近く夫婦同然の閑静だったと言われるアレクサンドリーヌ・デュリュー
二人を描いた作品は素描が多いが、どの作品も穏やかな雰囲気で出現などとは作風が全く違う
今展覧会の図録用トートバックの図柄に採用された「雲の上を歩くデュリューとモロー」はモロー本人とデュリューがモデル。ほのぼのとした感じ。
朝日文庫「世界名画の旅1フランス編」の「出現」の項は1987年に書かれたものだが、この当時、モローは「同性愛者」「女嫌い」であるとの評が一般的だったらしい。デュリューの存在はこの当時ようやく発見されたばかりでモローとの関係が如何なるものであったのかはまだ曖昧としていたようだが、30年の時を経て研究も進んだのだろうな
福岡市美術館へのアクセスはいつも天神大丸前または警固神社前からバスに乗って赤坂三丁目で降りて10分ほど歩く経路を通っていたが、今回は西鉄グランドホテル前バス停から赤坂・大手門経由で美術館東口で降りる経路を使ってみた。30分に1本程度は出ているし、美術館の北側の出入り口を経由すれば3,4分でバス停に着くからこちらのほうが便利。
会場:福岡市美術館 特別展示室
観覧料:一般1500円
※2019年10月現在のデータです