美術館がやけに多いアートの街、湯布院。いくつか入ってみたが、入館料が高いばかりで今ひとつのものがばかり。その中で、出色の存在だったのが、ここ。
なんの予備知識もなく入ったが、まず建物が素晴らしい。中庭を囲むようにして数棟の建物が建つ。昭和30年代の田舎の分校と言った雰囲気。象設計集団の設計とか。
湯布院の街は想像と違い俗化していて失望したが、ここに入って、思い描いていた湯布院があった、という感じ。古墳のような円形の建物内にある『小山の展示室』がメインだが、靴を脱いであがる和室の展示室など小さな小さな建物の中にもさりげなく作品が展示してある。
佐藤渓(1918~1960)は広島で生まれ、放浪の旅の後、湯布院の地で没した詩人画家。彼の作品の展示がここのメイン。放浪時代の水彩、デッサンが数的には多いが(雑駁な地方都市の一コマを切り取った『一宮競輪』は秀逸)、初期の油彩に見るべきものが多い。『富士恵像』は婉然とした女の微笑が印象深い。はじめ一見して、女性の肩の曲線が富士山のように見えて、富士山の山頂に女の顔が乗っていると言う奇妙キテレツな構図に、これはなにかのジョークか、と思ったが、表情に魅入られているうちにそんなことどうでもよくなった。彼が当時恋いこがれていた女性がモデルではないか、というようなことが解説に書かれていたが、そりゃこんな女性に袖にされたら、放浪の旅に出たくもなるわな、と妙に納得。
他に、万華鏡の展示も。メインの佐藤渓とは別に関連がないのだが、放浪のイメージと万華鏡の持つ童心のイメージがリンクして、違和感がない。手にとって一つ一つ覗いてみることができる。色々な種類があって、意外と面白い。他に、アート作品として作られた足湯や、由布岳の見える展望台、一年後の希望の日の葉書を送ることのできる『タイムスリップ・アートメールコーナー』など、さながら小さなテーマパークのよう。
その人生の年譜を見る限り、特に認められることもなく、失意のうちに不遇の生涯を閉じたようだが、彼のような多くの「不遇の画家」が、美術館の片隅に申し訳程度に作品が展示されることによって、その名を生き永らえさせているのに対し、これだけ愛情のこもった場を提供された彼の作品群のなんと幸せなことか。そしてその場からは、新たなアートを生み出そうという気概が満ちあふれている。「芸術は長く人生は短し」が芸術家の本懐ならば、ある意味理想的な人生なのだろう。
※2014追記
由布院美術館は2013年3月31日をもって残念ながら閉館しました
由布院美術館所蔵の佐藤渓の作品は、大分県別府市にオープンした「佐藤渓美術館」にて展示されているとのことです
由布院美術館
〒 879-5102 大分県由布市湯布院町川上岩室2995
大人(中学生以上)600円
小人(3才〜小学生)300円
休館日:毎週木曜日。臨時休館あり
美術館のことをブログにしたためていただき、誠にありがとうございます。
年に4回ほど佐藤溪の作品を入れ替えて展示しています。またのお越しを心よりお待ち申し上げています。
なお、料金や休館日の情報が変更になりましたので下記に記します。
・住所:〒879-5102 大分県由布市湯布院町川上岩室2995
・大人(中学生以上)600円
・小人(3才〜小学生)300円
・休館日:毎週木曜日。臨時休館あり。
情報ありがとうございます。記事書き変えときました
湯布院にいってもう6年、2,3年に1度くらいは訪れたいな、と思ってましたが、暇なし貧乏人の悲しさで佐世保の外に出ることすらままなりません(^^; そろそろもう一度温泉つかりに行ってみたいですね~