加納朋子「沙羅は和子の名を呼ぶ」

沙羅は和子の名を呼ぶ
沙羅は和子の名を呼ぶ

posted with amazlet on 05.11.21
加納 朋子
集英社 (2002/09)
売り上げランキング: 78,735

 実を言うとこの本を買ったのは今年の3月。

 由布院に行った際、宿で暇を持て余したら読もうと思って買ったもの。

 ただその時は別に持って行っていたジェイムズ・エルロイキラー・オン・ザ・ロード 」という旅先に読むにはふさわしくない小説を読んだので、手つかずでそれっきり。

 その後買ったことをしばらく忘れていたので、読了したのは9月だった。

 何故今になって紹介したかというと、まあ、ネタ切れだからだが(苦笑)

 デビュー当時は「日常的な謎」ものを得意とする作家で、北村薫 のフォロワーとも目されていたようだが、個人的には北村薫より好きな作家。

 1999年刊行のこの短編集では、ミステリーと言うよりファンタジーの色彩の濃い作品が多い印象。

 1作目の「黒いベールの貴婦人」では「幽霊」という超常現象を現実に起ったものとして取り扱いながら、それにまつわる謎を解く、という体裁を取っているのに対し、次の「エンジェル・ムーン」では一見ファンタジーかと思わせて、論理的な謎解きを導いてくる。

 この趣向のおかげで、次どんな話が来るのか、読む方の予想を難しくしてくれている。ある意味アンフェアだが。

 表題作はパラレルワールドを題材にしているが、そこに高度成長時代(だよね?)の社宅の日常、という極めて俗世間そのものの空気を絡めることで、話に深みを与えている。

 印象的なのは「フリージング・サマー」。読後感はむしろ辛いくらいなのだが、死んで「無」になる怖さというのもあるが、生きてるものはいずれ忘れ去られるという「虚しさ」。もし自分が死んだら、自分のことはいつまで覚えていてもらえるのだろうか、とか、とりとめないことを考えてしまいました。

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