「或る「小倉日記」伝」についで松本清張の初期短篇集を読んでみた。収録作は戦国時代から幕末、明治期を舞台とした時代小説集。
「西郷札」西南戦争の際薩軍が発行した紙幣のことで、タイトルだけだどお固そうだが、実際によむと悲恋モノ。短い尺の中に経済小説的要素も絡めた巧みな構成がお見事。ラストは好みが分かれるかも。
「西郷札」も含め、敗者の側の人間を描いた作品がほとんどであることは前に読んだ「或る「小倉日記」伝」と共通している。時代に取り残された老武士の「酒井の刃傷」、逆に理想化肌の若い大名の「二台の殉死」は悲劇的な結末を迎える点で、とくにその色彩が色濃い。
ただこの2作品、今ひとつ同情はわかないんだよな。どうもひとりよがりな人たちだな、という印象で。
どうにも後味の悪いこの2作のあと「面貌」を読むと、、ブサイクな上に才能にも恵まれず、戦に出てもミスばかり、フォローしてくれるような忠臣もいないいじけキャラ松平忠輝の、いじけながらも93歳の長命を保ったその生き方も必ずしも悪いものではないのかな、という気がしてくる。
「権妻」も落魄した旧幕臣を主人公にした、そんな作品のひとつ。「老害」とまで行ってはかわいそうだが、時流に取り残された老人が起こした悲劇という点では前述の「酒井の刃傷」とも共通しているが、こちらは後の清張の得意技「悪女モノ」を絡めたストーリー展開がことのほか巧みで洗練された印象。
ここに収められている作品は後年の推理小説的な要素は比較的少なめだが、これは短編ミステリーのお手本といった感じ
敗者の生き方を描いた良くも悪くも「湿っぽい」作品が続く中、最後の作品「白梅の香」のみは唯一毛色が違う、ちょっと艶っぽい作品。こういう作品も書けるんだな。というのは冗談だけど、一瞬別の作家の作品が混じっているかのような錯覚におちいりました(^^;