小川照郷「裂けた月」

古本ではなく、新刊の小説を買うのはかなり久しぶりかも。しかも文庫ではなく単行本

タイトルは「裂けた月」。下京町の「博文堂」の平台を占拠していた本、なんでも佐世保在住の作家のデビュー作、と。

美術サスペンス、というのも興味を引き、思わず衝動買い

裂けた月
裂けた月

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小川 照郷
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おすすめ度の平均: 5.0

5 不思議な構成

デビュー作とのことだが、読んでみるとかなりこなれた文章で、硬さはあまりない

それもそのはず、著者の小川氏は1947年生まれ。若いころは倉本聡門下でシナリオライター、30歳で佐世保に帰郷、今では古株のフリーペーパー「ライフさせぼ」を創刊。現在代表取締役、と

あ、それでか。

どこかでこの文体、読んだことあると思ったら、ライフさせぼの姉妹紙「99view」連載のショートショートの文章だ。

なるほどね。誰が書いているのか気になっていたのだが、編集長自らの執筆だったわけか。

展開がどこか映像的なのも、やはりシナリオライター出身という経歴ゆえか。東京、屋久島、長崎・外海、さらにパリ、ギリシャと流れるように場面が移り行き、展開によどみがない。

最近は翻訳ものばかり読んでいたが、さすがに日本人の作家だと読むスピードも早くなるな。

建築デザイナーの青年・純平と女性編集者詩穂、2人の主人公の視点で物語が展開する。二人の因縁は割合早い段階で読者には明かされるのだが、あまり著者には謎で話を引っ張る、というミステリー的な趣向には興味が薄いようだ。

たとえば8章で、切り裂かれた絵の真贋に関する真相に、詩穂が独特の感性で真実に迫るシーン、着眼点が面白く、スリリングなまでに知的興奮を感じるのだが、いかんせんその前の純平視点の章で真相を大方暴いてしまっていたため、せっかくの興奮が減じられてしまった。この2章は前後逆の方がよかったような。

どちらかというと著者の関心は、夭折の画家、佐伯祐三の絵をモチーフに、芸術に対する狂気にも似た熱情、といったものを描くことに比重が置かれているような。

ストーリー展開の巧さ故、あまり重くならず、スマートに描かれている印象があるが。アカデミックな内容を扱いながら難解に傾かず、流れるようなストーリーに仕上げた構成の妙は見事。

新人といっても若手とは違う年功を感じさせる。

団塊の世代も定年の節目を迎えたことで、こういった形の新人作家は今後、増えてくるだろうな。

実は僕もずいぶん前に某ミステリー賞に応募したことがあるのだが
(数年前、部屋の掃除中に出てきたその当時の原稿を3行読んで、その過去は永久に抹殺しようと心に誓った)

あと30年、というスパンで考えれば、夢の実現も絶対に不可能とはいえない・・・ かなあ(ー。ー)トーイメ

この小説、ひとつまことに残念だったのは

「佐世保が出てこない」

これだけは何とかしてほしかったような(^^;


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