今更ながら、ここ最近松本清張の初期短篇集を続けて読んで、本棚から久しぶりに取り出したのがこの一冊。多分20年ぶりくらいの再読。
あまりに有名な作品で東京駅4分間のトリックとか、あらすじはぼんやりと覚えていたが、結末は完全に失念してた(^^;
時刻表アリバイ崩し、凡人探偵(刑事)の足による丹念な捜査、社会派、と言った戦後推理小説の原点、というのがぼんやり覚えてたイメージだが、読み終えて一番印象に残ったのは女の怖さ(^^;
そんなに筆をさかれているわけではなく、事件後の三原刑事が福岡の鳥飼刑事に当てた手紙で描かれるだけなのだが、その淡々とした筆致が逆に怖さを増幅させてた
まあ清張作品はゼロの焦点とか霧の旗とか黒革の手帖とか、怖い女のでてくる作品は枚挙にいとまがないが、そういう意味でも原点というべき作品だったんだな
そういえば最近読んだ2短篇集(「或る『小倉日記』伝」「西郷札」)はあんまり悪女ものといった作品はなかったな。強いて言えば「権妻」だけど、主眼はそこじゃなかったし。
むしろ「父系の指」の母親にそういった雰囲気を感じた。決して悪女でも悪妻でもない(というか客観的にはお母さんはしっかりもので、父親が典型的なダメおやじ)のだけど、主人公の視線を通して描かれるなんか体温の低そうなところが、のちの清張ミステリーに出てくる悪女たちに通じるものが。。
「父系の指」は清張の自伝的な小説だけど、彼の女性観は母親のイメージに根ざしたものなのだろうか、とか推測。
「点と線」に戻る。日本の推理小説の中でも随一、と言った知名度を持つ作品の割に、尺は意外と短い。刑事たちの心象描写はあっても、容疑者サイドの描写はあくまで刑事たちの視点を通して淡々と描かれており、最初読んだ時あまり印象に残らなかったのはそのためだったのかな。
もちろん内容が薄いわけではなく、もし後年加筆修正してたら短いどころが上下巻くらいになってそうな気がする(^^;
波瀾万丈の展開があるわけでもなく、むしろゆったりとした展開でありながらしっかりと読ませる筆力はやはり文豪だな、と思った