張込み 松本清張

張込み―傑作短編集(五)―
新潮社 (2013-05-17)
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松本清張の作品。随分昔に読んだものを引っ張りだして再読。

短篇集だが、見事なまでに傑作揃い。

表題作の「張込み」。何度も映像化されているので大体の内容は覚えていたのだが、驚くべきはその薄さ(笑)

もちろん内容が、ではなくて。収録されている短編の中でもいちばん尺が短い。極限まで切り詰めたような坦々とした描写がもたらす緊迫感。そしてラストの余韻が際立つ。「点と線」を読んだ時も同じような感想を持ったが、こちらは短編なだけによりストイックな削ぎ落とした描写が強く印象に残る。

「張込み」は推理小説というより純文学、という感じだが、「鬼畜」は推理小説というよりホラー。というか、ホラーじゃないのにどんなホラーより怖い。

子殺しというインパクトの有る題材で昔読んだ記憶はしっかり残っていたが、その上で再読してもやっぱり怖かった。女二人の鬼気も怖いが、どこにでもいるような平凡なおっさんの転落ぶりが凄惨。

意識して「悪」に身を落とすのではない。嫁に逆らえない気の弱い男がその場しのぎ的に子殺しに走るまでの経緯のリアルな薄気味悪さ。ピカレスクのような爽快さは微塵もなく、どこまでもみじめ。小心で弱い人間の歯止めが効かなくなった時ほど悲惨なものはない、というか。

「顔」も映像化されることの多い有名な作品だが、こちらはミステリーとしての技巧が際立つ。犯人、そして犯人に命を狙われる目撃者の手記を交互に配してサスペンスを盛り上げ、偶然の出来事によりいちどおもいっきり落としてからのラストの鮮やかなどんでん返し

「点と線」や「張込み」は描写をそぎ落とすことで見る側の想像力に委ねる余地を与える手法が、映像化する側の意欲をかき立てている感があるが、「顔」はむしろ映像化しやすいように、それに向いた描写を積極的に織り込んでいるような気がする。あざといといえばあざといが、特にラストの1シーンなんかほんと映像向きだよな

鬱々とした作品群の中で、唯一毛色が違うのが「投影」。上司と喧嘩して新聞社をやめた主人公、キャバレーのナンバーワンだった(主人公のドロップアウトを招いた)その妻、主人公が勤めることになる潰れかけた市政新聞社、清張作品にありそうな題材ながら、おどろくべきことは(?)みんないい人で悪人がいない(笑)

やさぐれた主人公が汚職事件の追求を通じて自分を取り戻すという回復の物語。他の作風であれば回復どころか奈落の底に突き落とされるのは必定なところだが(マテ)、なぜかこの作品のみ白清張。

まあ他作品が黒清張の真骨頂(?)の傑作揃いなので、合間のこの作品である意味ホッとした。ただこのトリックはいくらなんでも無理筋です。その辺りも含め、映画化というより土曜ワイド劇場でのシリーズ化されそうな感はある(されたことあるかどうかは不明。あとシリーズ化はされてません)


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